米TechCrunchは、ベンチャーキャピタルのCollaborative Fundが、米メジャーリーグサッカー(MLS)のD.C. Unitedとそのスタジアムに出資したと報じました。単なるスポーツ投資ではなく、同社が支援するスタートアップの「実証・発信の場」としてプロスポーツクラブを活用する狙いがあるとされています。
Collaborative Fundは、D.C. Unitedとそのスタジアムへの出資を行った。同社創業者のクレイグ・シャピロ氏は、この投資について、自社が支援するスタートアップを披露するための場になると説明している。
プロスポーツは「広告枠」から「スタートアップの実験場」へ
これまでベンチャーキャピタルとプロスポーツの関係は、スポンサー契約や著名投資家による個人的なクラブ出資として語られることが多くありました。しかし今回のCollaborative Fundの動きは、それより一歩踏み込んだものです。
ポイントは、スポーツクラブやスタジアムを「投資先企業のショーケース」として使う発想にあります。スタジアムには、チケット販売、キャッシュレス決済、フードデリバリー、リテール、交通、ファンエンゲージメント、映像配信、セキュリティ、サステナビリティなど、多様な課題が集中しています。つまり、スタートアップにとっては実社会でプロダクトを試せる巨大な実験環境なのです。
特にD.C. Unitedのようなプロクラブは、試合日ごとに数万人規模の来場者を抱え、デジタル施策の効果測定もしやすい場です。たとえば、AIを使った観客動線の最適化、モバイルオーダー、ダイナミックプライシング、会員向けCRM、環境負荷を抑えるスタジアム運営など、VCの投資先が関われる領域は広がっています。
Thrive Capitalが開いた「VC×スポーツ所有」の流れ
元記事のタイトルでは、Thrive Capitalがベンチャーキャピタルによるプロスポーツ所有への道を開き、Collaborative Fundがその戦略をさらに進めようとしている、という文脈が示されています。
Thrive Capitalは、ベンチャーキャピタルがプロスポーツの所有に参入する道筋を示した。そしてCollaborative Fundは、同じ戦略を自社なりにさらに押し広げようとしている。
米国では近年、スポーツチームの価値が大きく上昇し、メディア権、配信、賭け関連市場、国際展開、アリーナ開発などを含めた「スポーツビジネス」が投資対象として存在感を増しています。単にチームの勝敗に賭けるのではなく、クラブを中心とした経済圏全体に投資するという考え方です。
VCにとって魅力的なのは、スポーツクラブが持つ強いブランド、熱量の高いファンコミュニティ、リアルな接点、そしてデータです。多くのスタートアップは顧客獲得に苦労しますが、プロスポーツは最初から濃いユーザー基盤を持っています。ここにテクノロジーを持ち込めば、プロダクトの検証と認知拡大を同時に狙うことができます。
日本市場への示唆:Jリーグ、Bリーグ、スタジアム開発にも波及するか
この動きは、日本のスポーツビジネスにも示唆を与えます。Jリーグ、Bリーグ、プロ野球、WEリーグなどでは、クラブ経営の高度化や新スタジアム構想、地域創生との連携が進んでいます。そこにVCやスタートアップがより深く関与する余地は大きいでしょう。
日本でも「クラブをテック導入の拠点にする」動きが強まる
日本のスポーツクラブは、地域密着型の経営を重視する一方で、収益多角化やデジタル化にはまだ伸びしろがあります。チケット販売の最適化、ファンアプリ、NFTやデジタル会員証、スタジアム内決済、スポンサー効果の可視化、生成AIを使ったコンテンツ制作など、スタートアップが入り込める領域は少なくありません。
特にBリーグは、アリーナ改革やエンタメ化を強く打ち出しており、テクノロジーとの親和性が高い分野です。Jリーグでも、スタジアムを単なる試合会場ではなく、街づくりや観光、飲食、地域データ活用の拠点と見なす動きが広がっています。
VCにとっては「投資先の出口」ではなく「成長装置」になる
今回のCollaborative Fundの出資が興味深いのは、スポーツチームを単なる金融資産として見ているだけではない点です。むしろ、投資先スタートアップの導入先、宣伝媒体、顧客接点として活用する発想が前面に出ています。
日本のVCにとっても、これは参考になるモデルです。たとえば、地域金融機関、自治体、スポーツクラブ、VCが連携し、クラブやアリーナをスタートアップの実証フィールドとして開放する。そこで成果が出た技術を、他地域や他業界に展開する。こうした循環が作れれば、スポーツ投資は単なる話題性にとどまらず、産業育成のインフラになり得ます。
一方で、スポーツクラブの経営にはファン文化、地域性、競技成績、リーグ規制など、通常のスタートアップ投資とは異なる要素も絡みます。テック企業の論理だけでクラブ運営を動かそうとすれば、ファンの反発を招く可能性もあります。成功の鍵は、クラブの歴史やコミュニティを尊重しながら、テクノロジーで体験価値を高めるバランスにあるでしょう。
Collaborative FundのD.C. United出資は、VCがスポーツを「投資対象」としてだけでなく、「スタートアップを成長させるプラットフォーム」として捉え始めたことを示しています。この流れが広がれば、プロスポーツのオーナーシップは、富裕層や企業グループだけの世界ではなく、テクノロジー産業とより密接に結びついた新しいビジネス領域になっていくかもしれません。
引用元: Thrive Capital led VCs into pro sports ownership; Collaborative Fund just upped that play
