「人をリアルに集める」ことが次のスタートアップ市場に?海外起業家が注目する“オフライン回帰”の波

TechCrunchが報じた海外スタートアップの新潮流は、AIやSaaS、フィンテックではなく、「人々をオフラインでつなげること」そのものを事業にする動きです。デジタル化が進み、あらゆる接点がオンラインに移った今、あえてリアルな場を設計する起業家たちが少しずつ増えています。

記事では、すでに大型イグジットを経験した起業家たちの名前を挙げながら、リアルなつながりやコミュニティ形成に賭けるスタートアップの可能性が紹介されています。

「Brynn PutnamとTristan Walkerは、ほとんどの創業者が夢見ることをすでに成し遂げている。大企業が買収したくなるほど魅力的な会社をつくり上げたのだ。」

「バレリーナとして訓練を受け、小規模なブティック型スタジオを展開していたPutnamは、コネクテッド・フィットネス企業Mirrorを創業し、3年足らずでLululemonに5億ドルの現金で売却した。」

「少数ながら増えつつある創業者たちは、人々をオフラインで集めること自体が一つの産業になると考え、そこに賭けている。」

なぜ今、「オフラインで人を集める」ビジネスが注目されるのか

ここ数年、スタートアップの主戦場はオンラインに大きく寄っていました。リモートワーク、オンライン学習、SNS、配信サービス、マッチングアプリ、生成AIツールなど、人々の生活や仕事はますますスクリーン上で完結するようになっています。

しかしその反動として、海外では「リアルな場で人と会うこと」に新たな価値が生まれています。特に都市部では、仕事はリモート、買い物はEC、娯楽は動画配信、交流はSNSという生活が一般化した結果、孤独感や偶発的な出会いの不足が社会課題として意識されるようになりました。

この文脈で重要なのは、単なるイベント開催ではなく、「人が集まりたくなる理由」を設計することです。フィットネス、ウェルネス、趣味、学習、ビジネスネットワーキング、地域コミュニティなど、目的を持った場づくりにテクノロジーを掛け合わせることで、新しい市場が生まれつつあります。

オンラインの効率化が進むほど、リアル体験の希少価値は上がる

生成AIや自動化ツールの普及により、情報収集や事務作業、コンテンツ制作の効率は急速に高まっています。一方で、人間同士の信頼関係や熱量、場の空気といったものは、まだ完全にはデジタル化できません。

そのため、今後は「オンラインで完結できるもの」と「わざわざ現地に行く価値があるもの」の差がより明確になるでしょう。スタートアップにとっては、後者をどう設計するかが大きなチャンスになります。

日本市場にも広がる可能性:推し活、ウェルネス、地域コミュニティとの相性

このトレンドは、日本市場とも非常に相性が良いと考えられます。日本ではすでに、ライブイベント、ポップアップストア、推し活、サウナ、ランニングコミュニティ、コワーキングスペース、地域移住イベントなど、リアルな接点に価値を見出す文化が根強く存在しています。

特に注目したいのは、「目的のあるコミュニティ」です。単に人を集めるだけでは継続的なビジネスにはなりませんが、健康、趣味、キャリア、学び、地域参加など、参加者が明確な動機を持つ領域では、課金モデルを作りやすくなります。

たとえば、日本では以下のような分野で“オフライン回帰”型のスタートアップが伸びる可能性があります。

  • 少人数制のフィットネス、ピラティス、ヨガ、サウナコミュニティ
  • クリエイターや起業家向けの会員制交流イベント
  • 推し活やファンコミュニティをリアルイベント化するプラットフォーム
  • 地方自治体や商業施設と連携した地域交流サービス
  • オンライン学習とリアル勉強会を組み合わせた教育サービス

日本の消費者は品質や安心感を重視する傾向が強く、場の設計や参加者のマッチング、運営の信頼性が成功のカギになります。単発イベントではなく、継続参加したくなる体験をどう作るかが重要です。

次の勝ち筋は「テックでリアルを最適化する」こと

オフラインを重視するからといって、テクノロジーが不要になるわけではありません。むしろ、リアルな場を成立させる裏側では、予約管理、決済、本人確認、参加者のマッチング、コミュニティ運営、CRM、データ分析など、多くのテクノロジーが必要になります。

Mirrorのようなコネクテッド・フィットネス企業が評価された背景にも、単なる運動体験ではなく、ハードウェア、ソフトウェア、コンテンツ、コミュニティを統合した体験設計がありました。今回の記事で示されている流れも、それに近いものです。リアルなつながりを、テクノロジーによって拡張・継続・収益化する発想が重要になります。

日本企業にとっての示唆

日本の大企業や既存サービス事業者にとっても、この動きは見逃せません。商業施設、鉄道会社、フィットネスクラブ、教育事業者、エンタメ企業、自治体などは、すでにリアルな場や顧客接点を持っています。そこにスタートアップ的なコミュニティ設計やデジタル運営を組み合わせれば、新しい収益源を作れる可能性があります。

今後は、単に「イベントを開く」企業ではなく、「人が継続的に集まる理由をつくる」企業が評価される時代になるでしょう。オンラインで何でも済む時代だからこそ、リアルに会う価値を再定義できるスタートアップには大きな余地があります。

海外で始まっているこの“オフライン再評価”の流れは、日本でもウェルネス、エンタメ、地域創生、学びの分野からじわじわ広がっていくはずです。